転倒の多くは、住まいの中で起きています。
東京消防庁の救急搬送データ(令和6年)によると、高齢者が日常生活の事故で救急搬送された原因の8割以上が「ころぶ」でした。住宅などで起きた転倒のうち9割以上は屋内で発生しており、場所別では居室・寝室が最も多く、玄関・勝手口、廊下が続きます。住み慣れたご自宅こそ、一度見直していただきたい場所です。
住まいを整えることには、研究の裏付けがあります。
地域で暮らす高齢の方を対象とした研究をまとめたCochraneレビュー(2023年)では、住まいの危険を確認して手を加える取り組みにより、転倒の危険が高い方では転倒の発生率が約38%低かったと報告されています。入院や体調の変化で筋力やバランスが変わった時期は、住まいを見直すよい機会です。
退院後の数か月は、特に気をつけたい時期です。
退院した高齢の方の転倒について18の研究をまとめた分析(2022年)では、退院後に転倒した方の割合は、1か月で6%、3か月で19%、6か月で25%と報告されています。退院直後に一度整えて終わりにせず、1か月ごとや体調が変わったときに見直していただくことをおすすめいたします。
最初に見直したいのは、夜間のトイレまでの動線です。
夜中に、暗い中を、寝起きの体で歩く。寝室からトイレまでの動線には、転びやすい条件がそろっています。枕元で照明を点けられるか、足元灯で通り道が見えるか、通り道に物や敷物がないかを、実際に夜の暗さで確かめてください。また、急に立ち上がると血圧が下がり、立ちくらみが起きることがあります。起き上がったらすぐに歩き出さず、一度腰かけて一息つく習慣も大切です。
住まいは、身体の状態と合わせて見ます。
同じ段差でも、危なさはご本人の身体の状態によって変わります。理学療法士は、筋力やバランスといった身体の機能、立ち座りや歩き方といった動作、夜中のトイレや入浴といった暮らし方、そして住まいの環境を、関連づけて確認します。たとえば、椅子からの立ち上がりを5回くり返す時間は、脚の機能を知る目安の一つです(日本理学療法士協会の資料では12秒以内が目安とされています)。立ち上がりに時間がかかる、手をつかないと難しいという場合は、寝室やトイレなど立ち上がる場所の、つかまる場所や座面の高さを優先して見直します。病院でできていた動作も、ご自宅の低いソファや夜の暗さでは同じようにできるとは限りません。確認は、普段の時間帯、普段の場所、普段の履物で行ってください。
床と通り道を確認する。
寝室からトイレ、居間から玄関など、毎日通る経路に、めくれた敷物や電気コード、荷物が置かれていないかを確認します。夜間にトイレへ行く経路は、足元を照らす照明があると安心です。確認は日中だけでなく、夕方や夜の暗さでも行ってください。
段差と、つかまる場所を確認する。
玄関の上がり框、浴室の出入口、部屋の敷居など、つまずきやすい段差を、ご家族と一緒に実際に歩いて確かめます。立ち上がる場所や向きを変える場所に、つかまれる物があるかも確認してください。家具を手すり代わりにしている場合は、体重をかけても動かないかをご確認ください。
介護保険の住宅改修という制度があります。
要介護・要支援の認定を受けている方は、手すりの取付けや段差の解消などの住宅改修に、介護保険を利用できる場合があります。支給限度基準額は原則としてお一人につき20万円で、自己負担は所得に応じて1割から3割です。工事の前に市区町村への申請が必要ですので、着工前に担当のケアマネジャーや地域包括支援センターへご相談ください。
住まいと合わせて、動き方も確認を。
手すりを取り付けても、立ち上がり方や使い方が身体の状態に合っていなければ、不安は残ります。理学療法士は、実際の生活の場で動作を拝見し、身体の状態に合わせた動き方と住まいの整え方をご提案いたします。
ご相談について。
LIEN WELLNESSでは、理学療法士による訪問型の自費リハビリを、豊中市・箕面市・吹田市で提供する準備を進めております。退院後の暮らしに関する初回のご相談(原則30分・無料)を、お電話またはオンラインにて承っております。
参考資料
東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」(令和6年)。Clemson L, et al. Environmental interventions for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023. Qian XX, et al. Post-hospital falls incidence and risk factors among older adults: a systematic review and meta-analysis. Age and Ageing. 2022;51(1):afab209. 日本理学療法士協会「理学療法ハンドブック シリーズ18 転倒予防」(2023年)。厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会資料「福祉用具・住宅改修」(令和5年)。本記事は2026年10月時点の情報に基づいています。